最近サウンドバーを新調したのに合わせて、自宅のテレビやゲーム機などの HDMI / ARC / eARC 端子と対応してるサラウンドの規格を調べてみました。
HDMI とは
テレビと周辺機器をつなぐ、映像・音声の送受信インターフェースです。それまで主流だったアナログ・コンポジット端子やコンポーネント端子にくらべ、デジタル伝送、映像・音声とも1本のケーブルで送れる、著作権保護対応などのメリットがあり、すっかりテレビの標準インターフェースになりました。 PlayStation 3 に搭載されたのが普及のきっかけとも言われています。
HDMI のバージョン
HDMI はこれまで様々な新技術を取り入れてバージョンアップが行われてきました。ものすごく乱暴に主要なバージョンを挙げると、こんな感じです。
バージョン | 機能 |
---|---|
HDMI 1.4 | 1080p/60Hz (Full HD) |
HDMI 2.0 | 4K/60Hz |
HDMI 2.1 | 8K/60Hz |
お手持ちのテレビが 1080p か 4K か 8K かによって、なんとなく対応している HDMI のバージョンがわかります。端子は基本的に同じ形状なので、端子をまじまじと見つめてもバージョンはわかりません。
サラウンドとは
音声を左右の2チャンネルで記録・再生するのがステレオ、それに前後等のチャンネルも加えてより臨場感を出したものをサラウンドといいます。映画館やホームシアターで使われています。
いま世間で一番普及しているフォーマットは、 Dolby Digital 方式の 5.1 チャンネルのものかと思います。この規格では、音声を予め
- フロント・左
- フロント・中央
- フロント・右
- リア・左
- リア・右
- 重低音 (0.1)
の6チャンネルで記録しておき、再生するときも6つのスピーカーを配置したサラウンドシステムを使います。
また、最近では DSP の進歩によって、サラウンドの音声を頭部伝達関数なんかを用いた信号処理によって、少ないスピーカーで擬似的にサラウンド感のある音響を表現できるシステムが増えてます。フロントスピーカーしかないサウンドバーやテレビ内蔵スピーカーでのサラウンド対応がこれに当たります。臨場感はもちろんたくさんスピーカーを配置した本格的なサラウンドシステムには負けますが、部屋を狭くせずに手軽に楽しめるので人気です。
ドルビーアトモスとは
Dolby Atmos とは、古くから音声・映像処理技術を開発しているドルビー・ラボラトリーズが、 2012 年に発表したサラウンドの記録・再生規格です。 Dolby Digital などそれまでのサラウンド規格では、サラウンド音声をあらかじめ 5.1 チャンネルなどの決められたチャンネル数に合わせてミックス・記録しておくものでした。しかし Dolby Atmos は、下記のような新しい技術を取り入れています。
- オブジェクトに基づいたサラウンド記録・再生
音声オブジェクトとその音声の3次元空間での位置情報を記録しておき、サラウンドシステムが位置情報と自分のスピーカー配置に応じてリアルタイムで音声処理を行い、各チャンネル(スピーカー)から出力するしくみです。スピーカー数や配置がより自由になり、またソフトウェア処理やゲーム等への親和性も高く、またサラウンド感もアップしています。 - 前後左右に加えて上下への音響対応
既存のサラウンドは前後左右の表現まで対応しているものが多かったですが、 Atmos はこれに加えて上下の音響表現に対応しました。なので、 Atmos 対応のサラウンドシステムは上下方向に音を投影できるスピーカーが必要になります。 - ロッシー・ロスレス両対応
実は Dolby Atmos とは厳密には音声フォーマットの機能拡張で、コーデックではありません。そして Dolby Atmos は、コーデックには既存の Dolby Digital Plus か Dolby TrueHD が使えます。このため時と場合に応じてデータの少ないロッシーとデータの多いロスレスフォーマットを使い分けることができます。 Netflix や Apple TV+ などの “Atmos” は、 Dolby Digital Plus ベースです。ブルーレイなどのディスクメディアに入っている “Atmos” や、 Apple Music の「ロスレス」の “Atmos” は、 TrueHD ベースになると思います。
2012 年当時は限られた映画館しか対応していませんでしたが、数年前からは民生用のオーディオアンプやサウンドバーでも対応するようになってきました。また Apple TV+ や Apple Music でも Dolby Atmos 対応になり、 AirPods Pro などの対応ヘッドホンを使うとヘッドトラッキング機能と合わせてかなり臨場感あるサラウンドが楽しめるようになっています。
Apple TV+ の映画「グレイハウンド」を iOS 15 と AirPods Pro で「空間オーディオ」をオンにして聴いてみてください。けっこう感動しますよ!
ARC とは
HDMI 1.4 で追加された、テレビの HDMI 「入力」端子から音声を「出力」する規格です。オーディオアンプやサウンドバーなどのオーディオ機器に、テレビから音声を出力するために作られました。
なぜそのような規格ができたかといいますと。
ARC ができるまでは、ブルーレイプレーヤーやゲーム機などの再生機器の音声をサラウンドシステムで再生したい場合は、再生機器をサラウンドシステムの HDMI 入力端子へつなぎ、そしてサラウンドシステムをテレビの HDMI 入力端子につなぐ必要がありました。
この状態では「サラウンドシステム→テレビ」へと HDMI 出力端子を介してつながっているのみなので、テレビからサラウンドシステムにオーディオ信号を送る方法がありません。そのためテレビや、テレビにつながった他の再生機器のオーディオをサラウンドシステムで再生したい場合、テレビ→サラウンドシステムへオーディオ信号を「戻す」光デジタルケーブルを接続する必要がありました。つまりテレビとサラウンドシステムの間に HDMI と光デジタルと2本のケーブルが必要になります。
これを1本の HDMI ケーブルでまとめるために生まれたのが ARC です。
ARC 対応 HDMI 端子を用いてテレビとサラウンドシステムを HDMI ケーブルでつなぐと、そこには
- サラウンドシステム→テレビへの HDMI 映像・音声
- テレビ→サラウンドシステムへの音声
の2つの信号が流れることになります。これにより、光デジタルケーブルを余計につながずとも、サラウンドシステムでテレビの音声やテレビにつながった他の再生機器の音声が出力できるようになりました。現在のアンプやサウンドバー等のサラウンドシステムは、ほとんど ARC に対応しています。
HDMI 2.1 からは対応フォーマットが飛躍的に増えた eARC ができました。
CEC とは
CEC とは HDMI 1.2 から追加された、 HDMI 経由で周辺機器やテレビを相互に制御するプロトコルです。ソニーの「ブラビアリンク」などメーカーによって様々な名前で呼ばれ、対応しているのかどうか大変わかりにくいです。 Apple TV の電源を入れるとテレビがついたり、テレビのリモコンでブルーレイレコーダーが操作できたりするのが CEC のおかげです。
規格自体がゆるふわで、電源オン・オフや音量調節などの基本的な機能しか規格に定められておらず、またメーカーが独自の解釈や機能を追加しても OK なこともあって、違うメーカー同士ではうまく動かず、イライラの元になります。また今日び接続・制御できる周辺機器がゲーム機等の再生機器だと3台までとなっており、これもよくメニューから機器が消える等問題を起こします。この CEC の規格決めた人を小一時間問い詰めたいです。
HDMI でサラウンドを出力する
さて本題です。
HDMI はバージョンによって対応しているサラウンドのフォーマットが異なります。とりあえず HDMI のバージョンごとの違いをまとめてみました。
HDMI 1.4 | HDMI 2.0 | HDMI 2.1 | |
---|---|---|---|
HDMI 帯域 | 10 Gbps | 18 Gbps | 48 Gbps |
HDMI ケーブル | High-speed | Premium | Ultra |
最大 PCM チャンネル数 | 8x | 32x | 32x |
最大 PCM ビット数 | 24-bit | 24-bit | 24-bit |
最大 PCM 周波数 | 192 KHz | 1536 KHz | 1536 KHz |
2.0ch PCM | Yes | Yes | Yes |
5.1ch PCM | Yes | Yes | Yes |
7.1ch PCM | Yes | Yes | Yes |
2.0ch Dolby Digital | Yes | Yes | Yes |
5.1ch Dolby Digital | Yes | Yes | Yes |
2.0ch Dolby Digital Plus | Yes | Yes | Yes |
5.1ch Dolby Digital Plus | Yes | Yes | Yes |
7.1ch Dolby Digital Plus | Yes | Yes | Yes |
Dolby Digital Plus “Atmos” | Yes | Yes | Yes |
7.1ch Dolby TrueHD | Yes | Yes | Yes |
Dolby TrueHD “Atmos” | Yes | Yes | Yes |
1080p / 60Hz | Yes | Yes | Yes |
4K / 60Hz | No | Yes | Yes |
8K / 60Hz | No | No | Yes |
HDR | No | Yes | Yes |
CEC | Yes | Yes | Yes |
CEC 2.0 | No | Yes | Yes |
このように HDMI は大抵のサラウンド方式に対応しています。 Atmos も大丈夫そうです。
ですが、これは ARC を使わず、昔ながらに「再生機器→オーディオ機器→テレビ」とつなぐ場合、もしくは「再生機器→テレビ」とつないでオーディオ機器を使わないのが前提です。
ARC でサラウンドを出力する
それでは ARC / eARC を使用してオーディオ機器をつなぐ場合はどうでしょうか。ちなみに ARC 以前の主流であったら光デジタル音声端子も参考に載せておきます。
ARC | eARC | 光デジタル | |
---|---|---|---|
オーディオ 帯域 | 3.0 Mbps | 37.0 Mbps | 1.5 Mbps |
HDMI ケーブル | High-speed | High-speed | 光ファイバー |
最大 PCM チャンネル数 | 2x | 32x | 2x |
最大 PCM ビット数 | 24-bit | 24-bit | 24-bit |
最大 PCM 周波数 | 192 KHz | 192 KHz | 192 KHz |
2.0ch PCM | Yes | Yes | Yes |
5.1ch PCM | No | Yes | No |
7.1ch PCM | No | Yes | No |
2.0ch Dolby Digital | Yes | Yes | Yes |
5.1ch Dolby Digital | Yes | Yes | Yes |
2.0ch Dolby Digital Plus | Yes | Yes | No |
5.1ch Dolby Digital Plus | Yes | Yes | No |
7.1ch Dolby Digital Plus | Yes | Yes | No |
Dolby Digital Plus “Atmos” | Yes | Yes | No |
7.1ch Dolby TrueHD | No | Yes | No |
Dolby TrueHD “Atmos” | No | Yes | No |
と、この通り ARC と光デジタルでは対応していない規格があります。
光デジタル接続では、 5.1ch Dolby Digital 以外のサラウンドは再生できないようです。
ARC では2チャンネル以上の PCM もしくは Dolby True HD (Atmos) が再生できないようです。ということは PS4 をテレビに HDMI でつなぎ、サウンドバーをテレビから ARC でつないだ場合、 せっかく PS4 で Dolby True HD (Atmos) 対応の映画を再生しても、オーディオ機器からはステレオや Dolby Digital で再生されちゃう可能性があります。なにが再生されるかは PS4 やテレビの設定によりそうです。
もちろんサウンドバーに HDMI 入力端子がある場合、 PS4 をサウンドバーにつなげば無事 Dolby TrueHD (Atmos) が再生できます。ただ最近主流の、 HDMI 入力端子のないサウンドバーなどの場合、 eARC が無ければ Dolby TrueHD (Atmos) が再生できないことになります。
またテレビや再生機器がせっかく最新規格に対応してたとしても、肝心のケーブルが古いと同じような問題が起こります。
何が言いたかったかというと
サウンドバーでサラウンドをきちんと再生するためには、再生する映画、再生機器の HDMI のバージョン、オーディオ機器の HDMI のバージョン、テレビの HDMI のバージョン、使っている HDMI ケーブルの規格、これらすべてが揃ってないとお目当てのサラウンドが出てない可能性がありますよ、ということです。私は最近アトモス対応の Bose Soundbar 900 を購入したんですが、はたしてこれに Apple TV やら PS4 やらをテレビの eARC 経由でつないで、できちんとサラウンドが出るんだろうか再確認したくなり、調べてみたというわけです。
これからサラウンドシステムやサウンドバーを買う場合は、テレビともに eARC 対応の製品にしておくのがオススメです。
参考にした記事
What Are HDMI ARC and eARC and How Do They Work?
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